夫が自己破産をしても妻の財産は処分されない
自己破産をしたら、妻の所有する財産も処分されてしまうのではないかと不安に思っている方も多いでしょう。
しかし、財産が処分されるのは自己破産した本人のみです。あなたが自己破産をしても、妻や家族の財産まで処分されることはないのでご安心ください。
また、妻があなたの代わりに借金を返済する義務も発生しません。
なぜなら、戸籍上夫婦や家族であっても、法律上は独立した一個人と考えられているからです。
なお自己破産の手続きをする際に、裁判所へ妻の通帳も提出しますが、財産調査をしているわけではありません。
裁判所が妻の通帳を提出させる目的は、家計の収支を把握したり財産を隠そうとしたりしていないかを確認するためです。
自己破産前に財産を移すと財産隠しを疑われる
自己破産をした場合、本人名義の財産は処分されてしまいます。
財産を処分されたくないからという理由で、自分名義の住宅や車を妻名義に変えたり預貯金を妻の口座に移したりしようと考えていませんか?
このような行為は財産隠しになるので、絶対にやめてください。自己破産が認められないばかりか、違法行為として罰則を受ける可能性があります。
財産隠しをした場合、破産管財人は否認権を行使します。否認権とは、妻を始めとした第三者へ流出した財産を、破産者のもとに戻すことです。
つまり、あなたが自分の財産を破産管財人に黙って他人に移しても、財産の処分から逃れることはできません。
また、離婚をすれば、住宅や車を処分されなくて済むと考える方もいるでしょう。
そのような行為も財産隠しに該当する可能性が高くなるため、一度弁護士に相談することをおすすめします。
ただし、もともと当事者間で離婚の意思がある場合は、財産分与しても問題にならないケースもあります。
昭和58年12月19日の最高裁判決は、以下のようなケースであれば、財産の分与が認められると判断しました。
財産の分与が認められるケース
- 分与した財産の金額が明らかに高額ではない
- 財産隠しを目的としていない
なお、妻への財産分与が問題になるかならないかは破産管財人が決定します。自分の判断で財産分与をした場合、財産隠しと疑われる可能性があるので注意してください。
財産隠しを疑われると、裁判所からの信用を失うため、他の財産も隠しているのではと疑われかねません。財産分与する場合は、弁護士へ一度相談することをおすすめします。
財産隠しをした場合にどうなるのかについては、以下の記事も参考にしてみてください。
債務整理と資産隠し~財産隠しをするとどうなる?知っておきたい6つのポイント
夫の自己破産が妻にも影響する4つのケース
夫が自己破産をしても妻の財産にまで影響が及ぶことはないため、妻にも迷惑がかからないことに安堵している方もいるかもしれません。
しかし、以下のようなケースでは妻にも影響が及ぶ場合もありますので、注意しなければなりません。
夫の自己破産が妻にも影響する3つのケース
- 妻が夫の保証人になっている
- 夫名義もしくは共有名義で財産を所有している
- 夫名義で車や保険を契約している
- カードやローンの審査に通らなくなるリスクもある
順番に解説します。
1. 妻が夫の保証人になっている
妻が借金の保証人になっている場合に夫が自己破産をすると、妻に返済義務が移ります。
この場合、妻が取れる選択肢は2つあります。
妻が夫の保証人になっている場合に取れる選択肢
- 自力で債務を返済する
- 夫と同時に自己破産をする
- 夫は自己破産を行い、妻は任意整理をして返済を続ける
借金が数百万円以上の場合、妻も返済ができない可能性があります。そのような場合は、妻も同時に自己破産することも視野に入れましょう。
また、一括での返済は難しくても分割払いで返済できそうな場合は、任意整理も検討してください。任意整理が認められれば、3〜5年の分割払いでの返済ができます。
なお、任意整理を行うメリットとデメリットについて気になる方は、以下の記事も参考にしてみてください。
任意整理のメリットとデメリット~債務整理で1番多い手続きの注意点
2. 夫名義もしくは共有名義で不動産を所有している
夫名義もしくは共有名義で自宅などの不動産を所有している場合は注意が必要です。
自宅の名義人が夫の場合、自己破産により処分されてしまうので、引っ越しせざるを得ません。
そして共有名義で不動産を所有している場合、夫の持ち分のみが競売にかけられます。
しかし、知らない人が競売にかけられた夫の持ち分を購入した場合、1つの不動産を妻と見ず知らずの人が共有する形になるでしょう。
その結果、不動産の維持管理費用や処分方法について、持ち分を所有している他人とトラブルになるリスクがあります。
3. 夫名義で車や保険を契約している
夫名義で車や保険を契約している場合も注意が必要です。自己破産をした場合、本人名義かつ20万円以上の価値がある財産は処分されてしまいます。
例えば、自己破産により車が財産処分されると、買い物や通勤に車を利用できなくなります。
また、保険を契約していた場合は、解約され貯金も差し押さえられてしまいます。そのため、今後の人生設計に大きな影響が出るでしょう。
4. カードやローンの審査に通らなくなるリスクもある
一般的には、クレジットカードやローンの契約に通らなくなるのは、自己破産をした本人のみです。
しかし、必ずしも本人以外の家族がカードやローンの契約をする際に影響がないとも言い切れません。妻がカードやローンの契約をする際も社内の顧客情報を確認するからです。
住所などから過去に夫が自己破産したことがわかれば、審査に通りにくくなります。
また、妻が専業主婦の場合、夫の年収や信用状況も確認されます。なぜなら、その場合に支払いができるかは夫の年収や勤務先次第だからです。
信用情報機関の情報から夫が自己破産したことが発覚すれば、支払い能力が乏しい印象を与えるため、カードやローンの審査に落ちる可能性は十分あります。
その場合、夫が自己破産した情報が信用情報機関から消えてからでないと、審査に通らないかもしれません。
なお、自己破産をした場合に、どのくらいの期間ブラックリストに登録されるのかについては、以下の記事も参考にしてみてください。
債務整理とブラックリスト登録期間~個人情報は何年間載るの?
自己破産を妻に隠し通すのは難しい
借金をしていることや自己破産しようとしていることを妻に隠している方は多くいます。そのような方は、なんとかして妻に自己破産がバレない方法がないかと考えていることでしょう。
残念ながら、以下の理由から、自己破産していることを同居している妻に隠し通すのは難しいといえます。
自己破産を妻に隠し通すのが難しい理由
- 同居人の収入証明の提出を求められる
- 住宅や車などの財産が処分される
- カードやローンの利用ができないことを怪しまれる
詳しく解説します。
1. 同居人の収入証明の提出を求められる
2. 住宅や車などの財産が処分される
自己破産をすると、本人名義の財産を処分しなければなりません。マイホームや車のように目立つものや利用頻度が多いものを処分されれば、妻に自己破産したことを隠すのは不可能です。
自己破産の手続きをする際には妻に打ち明けるしかありません。
夫が自己破産しても妻の財産まで処分はされない
夫が自己破産をしても、妻の財産まで処分されることはありません。また保証人になっていない限りは、夫の代わりに借金を返済する義務も発生しないので、ご安心ください。
繰り返しますが、自己破産をする際に、夫の預貯金を妻に移したり、夫名義の車や保険を妻名義に変えたりしないようにしてください。
財産隠しが発覚すれば、財産の処分から逃れることはできません。むしろ、罰則を受けるリスクが高くなります。
離婚するなどの事情で妻へ財産分与をする場合も、自分で判断せずに弁護士へ相談してみてください。弁護士へ相談すれば、財産隠しと疑われるリスクも大きく減少します。
借金を多く抱えている場合、自分一人の力では解決が難しいケースがほとんどです。まずは、一日でも早く専門家に相談を行い、最善の判断をしてもらうことが大切です。